道草手帖

好きなものや日々の出来事をのんびりと綴っていきたいと思います

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夏の日に。  

100806derHimmel


悪い時代が近づくときは、わかる。
モンテーニュの『エセー』を、
朝に夕に、たまらなく読みたくなるからだ。
医者の息子がいた。遠い昔の話だ。
医科を出たが、父の病院を継ぐことはなかった。
貧しい人たちのための下町の病院だったが、
そのとき、この国は、戦争に明け暮れていた。
医者の息子は戦争にゆき、消息を絶ち、
そして、この国は、戦争に敗れた。
敗戦後の、或る年、生き残った
息子の戦友が訪ねてきて、死者の
手紙を差しだした。「お別れです」にはじまる、
医者の息子の、父宛の、最後の短い手紙。
戦争で死んだ息子の、敗戦の後の二度目の死。
老いた医者は、死んだ息子の手紙を、
死んだ息子の椅子にすわって、読んだ。
そして、ふと、息子の机の引きだしをあけた。
一冊の本が、開かれたまま、そこにあった。
たった先刻まで、死んだ息子が、
そこで、その本を読んでいたようだった。
父は、息子が、読みさしにしていった
モンテーニュの『エセー』を、黙って閉じた。
有馬頼義『遺書配達人』に遺されている、
この国の、小さな人たちの、小さな物語だ。
「わたしの人生における主たる関心は、
―最後がみごとに運ばれること、
すなわち、静かに、こっそりと死んでいくこと」
悪い時代が、また、近づいているのか?
わたしは、いま、新しく訳された
モンテーニュの『エセー』をゆっくり読んでいる。

         長田弘「読みさしのモンテーニュ」


長田弘さんの詩集、
『幸いなるかな本を読む人』に
おさめられている詩です。

多くの人たちの人生が変えられて
しまったあの夏の日。
過去のこと…等と記憶から消して
しまうことなどできない出来事に、
私は一体何ができるのでしょう…。

今、ゆっくり思いを馳せています。


幸いなるかな本を読む人 詩集幸いなるかな本を読む人 詩集
(2008/07/25)
長田 弘

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